【風営法改正】ホスト広告規制の現状と対策

ホスト広告規制の本当の狙いとは?

改正風営法が施行されたことに伴い、ホストクラブに対する広告規制が強まっています。
「ナンバーワン」「億プレイヤー」「支配人」といった肩書きや実績をうたう看板や、ホスト間の競争意欲をかき立てる文言を多用したSNS投稿が指導の対象となるケースも少なくありません。これまでは、それらの表現が「見る人を惹きつけるから」問題視されてきたように思われてきましたが、現場に身を置くと、実際のところは少し違う意図も見えてきます。


表現を“ひねればセーフ”ではない――警察庁の意図を履き違えないために

ホストの広告規制において、「ナンバー1」や「年間◯千万」など、警察庁が具体的に例示した表現を避ければ問題ないと考える店舗もありますが、それは大きな間違いです。そうした単純な言い換えや表現の工夫で抜け道を探すこと自体が、規制の趣旨を逸脱しており、場合によっては脱法行為とみなされてもおかしくありません。

警察庁が問題視しているのは、文言そのものよりも、それが与える心理的影響や営業行為への波及です。競争をあおり、過剰な売上競争を誘発する構造そのものに対して規制がかかっているという本質を見誤ってはいけません。表現を変えても、伝えようとしている“メッセージの本質”が同じであれば、それは見逃されないという前提で、慎重に判断していく必要があります。


広告は「誰かのため」ではなく「心を煽る装置」に

ホストの広告規制は、単に通行人を呼び込むための仕掛けを制限するものではありません。実際には、既存の顧客が「応援したい」「No.1にしてあげたい」と思わせる心理や、ホスト本人の競争心を過剰に刺激する効果がある点が問題視されています。

警察庁はこの点について、「広告物に接客従業者の容姿と共にその営業成績を直接的に示し、若しくは推認させ、又は接客従業者間の競争を強調する文言を表示することで、客には自身が好意の感情を抱く接客従業者の営業成績を向上させるために高額の遊興又は飲食をする意欲をそそらせるとともに、接客従業者には自身の営業成績を向上させるためには違法行為をもいとわない意識を醸成させるような状態が引き起こされることとなる」と説明しています。

もっとわかりやすく言うと、接客従業者の容姿と営業成績を結びつけた表現が、客側には過度な消費意欲を従業者側には「違法行為もいとわない」ほどの営業意識を生じさせかねないと明言した訳です。

つまり、広告は単なる告知手段ではなく、人の心理に強く作用する“装置”として機能しており、その影響力ゆえに規制対象となっているのです。ホスト広告は、既存顧客やホスト本人に向けてのアピールであり、ライバルへの競争心や、自分自身のモチベーションを高めるための手段になっていることが多いです。たとえば街中で自分の看板を見かけることが「もっと売らなければ」というプレッシャーになり、過剰な営業や無理な売掛を生むきっかけにもなり得ます。


看板が生む営業の過熱

ホストにとっての「広告」は、評価そのものであり、承認欲求を満たすための装置です。それを通じて売上が上がり、店の利益が増えれば、見方によっては健全な競争とすら言えるかもしれません。しかし、過度になれば営業は荒れ、金銭トラブルや違法行為にもつながりかねません。その予防線として、広告表現の制限が設けられているという側面は、現場を知る者にとっては感覚的に理解できます。


規制は外向きではなく“内向き”のために?

もちろん、地域住民からの苦情や風俗環境の悪化防止といった「外向き」の理由もあります。ただ、広告が誰のために存在しているのかを掘り下げていくと、それが営業者自身の精神状態や行動に強く影響していることが見えてきます。つまりこの規制は、見る者(客)ではなく、見せる者(ホスト)の行動を制御するための仕組みとしても機能しています。


歌舞伎町では「黒塗り」で対応が進む現状

現在、歌舞伎町ではホストの看板に対して「黒塗り」が施される事例が目立っています。これは自主的な判断によるものではなく、警察庁からの通達を受けて、具体的な規制が実施されていることによる対応です。

看板に記載されていた「ナンバーワン」「億プレイヤー」などの肩書きや、売上実績といった表現が規制対象となり、それらの文言部分を黒く塗りつぶすことで対応がなされています。多くの場合、人物の写真や店舗名はそのままに、問題視される文言のみを隠すという形式がとられています。

ただし、黒塗りによってかえって目立ってしまい、「もともと何が書かれていたのか」と注目を集めてしまう側面もあります。現在のところ、街全体として統一的な対応が取られているわけではなく、店ごと・看板ごとに対応のばらつきが見られるのが実情です。看板表現をめぐる規制は、今後もさらに変化していく可能性があります。


「売る」から「抑える」へ

かつてホストクラブの広告は、営業戦略の中核にありました。派手な看板、華やかなSNS投稿、ナンバーワンという称号。こうした表現は、売上や人気を可視化し、他者との差別化を図るうえで欠かせない手段とされてきました。広告によって“物語”を作り、それを顧客に消費してもらうという構造は、ある意味でホストビジネスの根幹でもあったのです。

しかし今、その広告が営業そのものを壊しかねないものとして見直され始めています。競争心の煽りや売上至上主義が、無理な営業や違法行為を誘発するリスクを生み、店側も従業者も、そして顧客さえも疲弊させている。そうした現実を踏まえたとき、広告は「売るため」ではなく「守るため」に抑制されるべき段階に差し掛かっていると言えるのではないでしょうか。

いまホスト業界は、“見せることがすべて”だった時代から、“見せすぎないことで守る”という新たな価値観への転換点に立たされています。その中で、表現の自由と営業の健全性、そのバランスをどう取っていくのかが問われています。